地上波放送とVOD(ビデオ・オン・デマンド)の視聴環境は、今まさに大きな転換点を迎えています。
リアルタイム性を強みとする地上波放送に対し、VODは時間や場所に縛られない柔軟な視聴スタイルを提供し、特に若年層の視聴習慣を大きく変えています。
本記事では、地上波とVODの現状と将来展望、課題、そしてTVerやNetflix、Prime Videoなどを通じた融合戦略や今後の収益モデルに至るまで、視聴行動の未来像を包括的に解説します。
- テレビ離れとVOD普及の背景にある視聴行動の変化
- 地上波とVODが共存する未来のメディア戦略
- 視聴者主導で進化する新たな映像体験のあり方
地上波放送とVODの今後の主役は?視聴行動の変化から読む未来図
テレビを見るという行為自体が、今や一つの「選択肢」になっています。
かつては当たり前だった地上波の前に座るスタイルは、スマホやタブレットでのオンデマンド視聴へと急速にシフトしています。
この変化は単なるメディアの入れ替えではなく、視聴者の価値観そのものを映す鏡となっています。
若年層を中心に「テレビを観ない」ことが自然になってきている今、メディアの主導権は明らかにVOD側に傾いています。
2025年現在、Z世代の6割以上が「テレビは家にあっても使わない」と回答しており、視聴の中心は完全にスマホとVODに移行しています。
これは地上波にとって脅威であると同時に、戦略転換のタイミングでもあるのです。
一方で、VODには明確な強みがあります。
「いつでも・どこでも・自分の好きなコンテンツを視聴できる」という柔軟性が、日々の暮らしに密着したメディア体験を提供しているのです。
NetflixやPrime Video、YouTubeに至るまで、自分の時間に合わせた視聴が可能であることが、支持を集める最大の理由といえるでしょう。
では、地上波はこのまま衰退していくのでしょうか?
決してそうではありません。
リアルタイム性や公共性、速報性を活かした報道・スポーツ・大型番組などにおいて、地上波は依然として強力な存在感を放っています。
VODが日常に溶け込む一方で、「今、観たい」ライブ感のある瞬間を提供できるのは地上波の特権とも言えるでしょう。
つまり今後の主役は、単純な勝者ではなく、状況やニーズに応じて「選ばれるメディア」になれるかどうか。
視聴行動の変化をいかに先読みし、適応していけるかが、地上波とVODそれぞれの未来を左右します。
若年層の「テレビ離れ」が加速する理由
「最近、地上波を全く観ていない」──こうした声をZ世代やミレニアル世代からよく耳にします。
総務省や民間調査機関のデータからも、若年層のテレビ視聴時間が年々減少している事実が明らかになっています。
なぜこれほどまでに、若年層はテレビから離れてしまったのでしょうか。
最大の理由は、「自分の都合に合わない情報発信のテンポ」にあります。
地上波はリアルタイム放送という特性上、番組表に縛られる視聴スタイルが前提です。
一方、VODはスキマ時間にサクッと視聴できる柔軟さがあり、通勤中・食事中・入浴中といった生活のあらゆる場面に溶け込みやすいのです。
また、スマホネイティブ世代の情報取得は「自分主導」であることも見逃せません。
アルゴリズムによるレコメンドやSNSとの連携で、興味のある話題を自分で選ぶことが当たり前となった若年層にとって、「興味のない番組を待つ」という行為自体が時代遅れと映ってしまいます。
さらに、YouTubeやTikTokなど、より短く直感的な動画体験が、テレビの長尺番組と対照的な存在として受け入れられている現状も加味すべきです。
最後にもう一つ。
共感できる価値観の欠如も要因です。
テレビが届けるコンテンツが中高年向け中心であり、若者自身の声や文化があまり反映されていないと感じている人は少なくありません。
つまり、若年層の「テレビ離れ」は偶然ではなく、価値観・生活様式・技術環境の総合的な結果なのです。
時間帯・デバイス別に見る視聴スタイルの変化
「いつ、どこで、何を、どうやって観るか」──現代の視聴スタイルは、まさにこの問いに集約されます。
視聴時間帯と使用デバイスの組み合わせによって、テレビとVODの使い分けがより明確になってきています。
これはメディアの競争というより、視聴者の生活パターンに最適化された「視聴行動の最適解」を探る過程とも言えます。
たとえば、朝や夕食時には、地上波ニュースや情報番組をリビングのテレビで視聴する傾向が今なお根強く残っています。
これは「家族と共通の話題を共有する時間」として機能しているためで、地上波のリアルタイム性が社会的なつながりを演出している好例です。
一方で、昼休みや深夜、帰宅後の「一人の時間」にはスマホやタブレットを使ったVOD視聴が急増しています。
とりわけ、20代以下のユーザーは約8割がモバイル視聴をメインにしているというデータも出ており、VODは時間の隙間を埋める「マイメディア」としてのポジションを確立しています。
NetflixやYouTubeなどは、1.25倍・1.5倍再生といった“時短視聴”にも対応しており、忙しい日常の中で「時間をコントロールできる映像体験」が求められている証拠です。
加えて、スマートテレビの普及によって、地上波とVODの“シームレス視聴”も加速しています。
リモコンひとつでTVerやNetflixに切り替えられる環境が整った今、視聴者は時間帯と気分によって「テレビ」というハードの上で自由に選択できるようになりました。
これは「地上波vs VOD」という構図から「目的別の使い分け」へのシフトを象徴しています。
リアルタイム視聴 vs オンデマンド視聴:使い分けの最前線
メディアの進化が加速する中で、視聴者は「テレビかVODか」を選ぶのではなく、「いつ・どんな状況で・何を見るか」によって最適なメディアを使い分けるようになっています。
リアルタイム視聴とオンデマンド視聴の棲み分けは、視聴時間帯・コンテンツ内容・使用デバイスの3要素で大きく異なることが、さまざまな調査で明らかになっています。
このセクションでは、それぞれのスタイルの具体的な使い分けの傾向と、それに伴うメディア側の戦略について掘り下げていきます。
朝・夜は地上波、昼・深夜はVOD?時間帯別の視聴傾向
朝の時間帯(6時〜9時)には、地上波のニュース・天気・情報番組が根強い人気を誇っています。
この時間帯は、出勤・通学前のルーティンとしてテレビを「BGM的に」利用する家庭が多く、リアルタイム性と共通の話題形成という点で依然として強い地上波の領域です。
一方、昼間(12時〜15時)と深夜(23時以降)はVODの独壇場となっています。
昼休みに短時間の動画をスマホで観る社会人や、深夜に映画やドラマをじっくり楽しむ大学生など、生活時間に合わせた「選べる視聴」が日常に浸透しています。
特に若年層では、テレビ番組表に縛られることなく、自分のペースで観られるVODこそが“当たり前”のメディアと認識されています。
また、夕方から夜(18時〜22時)にかけては、家族団らんの時間として地上波が再び選ばれる傾向があります。
ドラマ・バラエティ・スポーツ中継などの「みんなで楽しむ系コンテンツ」は、テレビの強みが生きる場面です。
この時間帯にあえてリアルタイムで視聴することで、SNSでの同時反応や話題の共有も期待されます。
スマートテレビとスマホの視聴シーン別使い分け
デバイス別に見ると、その違いはさらに鮮明になります。
スマートテレビは「家でのくつろぎ時間」を演出するリビングの主役となっており、YouTubeやNetflixを大画面で観るスタイルが一般化しています。
一方、スマホは「隙間時間の相棒」として、トイレ・電車・就寝前といった短時間での視聴に最適化されているのです。
さらに、TVerなどの無料見逃し配信サービスが、地上波とVODの橋渡し役として機能しています。
特に「リアルタイムで観たかったけれど見逃した」ユーザーにとって、見逃し配信は非常に有用であり、地上波の価値をVOD的に拡張してくれる存在なのです。
このように、視聴スタイルは「地上波 or VOD」ではなく、「時間帯・気分・デバイスによるマルチ選択型」へと完全に移行しています。
メディアの主導権は、もはや発信者ではなく視聴者にあるのです。
これを前提に、テレビ局とVOD事業者は、それぞれの特性を活かした“共存型戦略”を模索し続けています。
地上波とVODの「融合戦略」が描く共存モデル
地上波とVODは対立ではなく、融合という新たなステージに入りつつあります。
視聴者の行動パターンが多様化する中で、テレビ局は「放送」だけでなく「配信」を取り込んだハイブリッド型メディア戦略へとシフトしています。
この動きの象徴が、TVerやABEMAといった“地上波ベースのVODプラットフォーム”の存在です。
TVer・ABEMAが担うハイブリッド型サービスの拡大
2025年現在、TVerは月間利用者数が2,200万人を突破し、地上波放送とVODをつなぐ重要なインフラとして成長しています。
番組のリアルタイム同時配信や見逃し配信に加え、スポーツ中継や特番のネット独占配信も進んでおり、もはや「放送局の拡張チャネル」として定着しています。
TVerは広告付き無料配信(AVOD)モデルを採用しており、ユーザーの負担なく地上波番組を再視聴できる環境を提供しています。
また、レコメンド機能や視聴履歴に基づいた番組提案など、従来の放送にはなかった「個別最適化」の視聴体験も実現しています。
一方のABEMAは、テレビ朝日とサイバーエージェントによる共同出資で生まれたインターネットテレビ局です。
リアルタイム配信とオンデマンド配信の両軸を持ち、地上波では難しいジャンルやコンテンツを柔軟に提供しています。
特に『Mリーグ』や『恋愛リアリティショー』など、ニッチだが熱狂的なファンを持つジャンルに注力している点が特徴です。
ABEMAは、ニュース速報のリアルタイム配信やスポーツ中継、さらには「ペイパービュー型課金」の実装などにより、単なる地上波の補完ではなく“独立したメディアの地位”を築きつつあるのです。
放送局が挑む配信領域のブランディング戦略
こうしたハイブリッド型サービスの成功を支えるのが、放送局自体のブランド価値と、視聴者との信頼関係です。
かつては「配信=二次利用」の位置づけだったのが、今や「配信を前提とした番組制作」へと大きく転換しています。
NHKはNHKプラス、フジテレビはFOD、TBSはTVerやParavi(統合後Lemino)など、局ごとに独自の配信戦略を展開しています。
とくに注目されるのは、地上波の信頼性・速報性を軸に据えた“デジタル再ブランディング”です。
たとえばテレビ東京はYouTubeでの切り抜き配信や公式チャンネル運用に積極的で、若年層向けに「短尺×高密度」の配信戦略を展開。
コンテンツ自体を視聴者とともに育て、SNS上でバズを生み出す仕組みも構築されています。
さらに、視聴データの取得・分析による番組改善も活発化しています。
VODプラットフォームを通じて得られる“ユーザーの本音”は、今後の編成・広告戦略において極めて重要な資産です。
かつての一方通行だったテレビ放送が、双方向・リアルタイム・オンデマンドを融合した「新しい公共メディア」へと変貌しつつあるのです。
このように、TVer・ABEMAをはじめとする融合戦略は、地上波とVODが補完しあいながら視聴者の生活に密着する「メディア共存時代」の幕開けを象徴しています。
選ばれるのは、単に便利なメディアではなく、“自分の時間と気分に寄り添ってくれるメディア”なのです。
VODの進化と競争:Netflix・Prime Videoの先進戦略
動画配信サービス市場は、かつてないほどの競争時代に突入しています。
その中でも、NetflixとPrime Videoは、グローバルかつローカル戦略を巧みに融合させることで、日本市場でも存在感を拡大しています。
この2社が市場でリーダー的立場を維持できている理由は、ただ作品数が多いからではありません。
オリジナルコンテンツ制作力と、価格とUX(ユーザー体験)を両立させた柔軟なプラン戦略にあります。
オリジナルコンテンツが差をつける要因に
Netflixが世界中でユーザーの心を掴んでいる最大の武器は、“オリジナル作品の質と量”です。
『イカゲーム』『ストレンジャー・シングス』など世界的ヒット作を生み出す一方で、日本でも『First Love 初恋』『忍びの家』など、日本人クリエイターを起用した本格的な制作を強化しています。
これにより、グローバルプラットフォームでありながら、ローカルユーザーへの最適化を実現しているのです。
Prime Videoもまた、地上波ではできないテーマや表現を取り込んだ独自作品に注力しています。
『バチェラー・ジャパン』『エンジェルフライト』など、SNSと連動する視聴体験を意識したコンテンツが増加しており、ユーザーとの能動的接点を増やしています。
特にNetflixは、視聴データを活用しながら制作やリニューアルの判断を下しており、「数字を基にしたコンテンツPDCAサイクル」の構築が進んでいます。
単に視聴されるだけでなく、記憶に残り、SNSで拡散される“バズる構造”を持つコンテンツ開発力は、地上波との決定的な差別化要素となっています。
広告付き低価格プランで価格重視層を獲得
VODの普及に伴い、「料金の選択肢」が新たな競争軸となってきました。
Netflixは2022年から段階的に導入していた広告付きベーシックプランを日本市場でも展開し、2024年には約25%の新規ユーザーがこのプランを選択していると報告されています。
これは「月額約790円」で、SVOD(定額制動画配信)とAVOD(広告付き配信)のハイブリッドともいえる構成です。
Prime Videoもまた、Amazon Prime会員費に含まれる手頃な価格設定が魅力です。
月額600円未満で配送特典とVODサービスを享受できるこの設計は、コスト意識の高い層に強く支持されています。
両社に共通しているのは、「価格を下げてもUXを落とさない」方針です。
広告の挿入タイミングや表示方法、再生品質などにも細心の注意が払われており、従来の地上波CMに対する“煩わしさ”とは一線を画した体験設計がなされています。
今後の焦点は、「広告付き低価格プランを主力にできるかどうか」にあります。
これが実現すれば、ライトユーザーからコアファン層まで、幅広い視聴ニーズを一本で捉える巨大プラットフォームとして、NetflixやPrime Videoはさらに地上波を脅かす存在になるでしょう。
VOD市場は、価格、作品力、UX、そして「日常への溶け込みやすさ」という複合的な要素で、進化し続けています。
もはや単なる映像提供ではなく、「どんな体験を届けるか」が競争の本質になっているのです。
広告モデルの変革:AVODとSVODの共存時代へ
動画配信の収益モデルは、いま大きなパラダイムシフトを迎えています。
かつては「SVOD=唯一の主流」という認識が強かったものの、2025年現在ではAVODとSVODが明確に棲み分け、かつ共存する市場構造へと進化しています。
視聴者のニーズが多様化し、“無料で見たい派”と“お金を払って広告なしで楽しみたい派”が共に存在する今、収益構造の多様性こそがメディア戦略の中核になりつつあります。
AVOD(広告付き無料配信)の成長と市場拡大
AVODとは、視聴者が無料で動画を楽しむ代わりに、広告を視聴することで収益を得るモデルです。
この形式はYouTubeを筆頭に、日本ではTVerやGYAO!(現在は統合・終了)などが先行して展開し、近年ではNetflixやDisney+もこのモデルを導入するなど、“無料視聴×高品質コンテンツ”の潮流が加速しています。
特にTVerは、地上波の放送局が共同出資して運営するAVOD型の成功例であり、広告収益によって見逃し配信や独占配信を可能にしています。
ユーザーの平均視聴時間が延びる中で、広告枠の価値も上昇しており、企業側にとっても“ブランド安全性が高いプレミアムな動画広告”として再評価が進んでいます。
加えて、広告技術の進化もAVODの追い風になっています。
視聴データと連携したパーソナライズ広告や、視聴者の好みに基づくインタラクティブ型広告の導入が進み、“邪魔な広告”から“価値ある情報提供”へと進化しているのです。
SVOD(定額制動画配信)のプレミアム路線とその限界
一方、SVOD(Subscription Video On Demand)は、月額料金を支払って広告なしで視聴できる安定収益モデルとしてNetflixやU-NEXT、Huluなどが展開しています。
プレミアム感のある体験や、没入感のある長尺作品に対して支持が強く、“作品を観るという行為”を特別な時間として大切にしたい層に根強い人気があります。
しかし、近年ではSVODにも課題が見えてきています。
その一つが、「サブスク疲れ」と呼ばれるユーザー心理です。
複数のサービスを契約すると月額コストが増大し、「本当に観る時間があるのか」「お得感はあるのか」という疑問を抱く層が増加しています。
その結果、広告付きプランへの移行を検討するユーザーが増え、Netflixなどが導入した低価格・広告付きプランは、新たな選択肢として定着し始めています。
つまり、今や「広告ありor広告なし」ではなく、価格・視聴時間・広告の質によってユーザーが最適プランを選ぶ時代なのです。
今後の戦略として、AVODとSVODを「目的別」で並存させるサービスが増えると予想されます。
- 家族で大画面視聴 → SVOD(高画質・広告なし)
- 通勤中のスマホ視聴 → AVOD(短時間・手軽)
- 未契約ユーザーへの導線 → AVODからの有料誘導
このように、AVODとSVODは競合するのではなく、“視聴シーンやニーズに応じて機能分担”する関係性へと進化しています。
今後の主戦場は、いかに視聴者の感情と行動に寄り添った広告体験を創出できるかに移っていくでしょう。
データドリブンな視聴体験の最前線
映像コンテンツは、今や「感覚で届けるもの」から「データで最適化するもの」へと進化しています。
とくにNetflixを筆頭に、レコメンドアルゴリズムと視聴データの活用は、ユーザー体験の質と収益性の両立を実現する鍵となっています。
このセクションでは、データドリブン戦略がもたらす新たな価値創造について具体的に解説します。
視聴データとレコメンドアルゴリズムの活用事例
Netflixのアルゴリズムは、「ユーザーが次に何を観たくなるか」を予測する設計がなされています。
再生履歴、視聴中の停止時間、デバイス、曜日・時間帯など数十種類の指標がAIで解析され、個々のユーザーに最適なタイトルがトップ画面に並びます。
これにより、“探す手間”を限りなくゼロに近づけ、視聴継続率を最大化する構造を生み出しています。
TVerやABEMAでも、視聴ログとユーザープロファイルに基づいた番組レコメンドが行われており、地上波番組の見逃し配信に「個別最適化」という視点が加わるようになりました。
さらにABEMAでは、スポーツや音楽ジャンルに関しては、ユーザーの「観る傾向」や「視聴時間帯」を把握し、番組の編成自体にも反映されています。
このようなレコメンドは、単なる“オススメ機能”に留まらず、「ユーザーが知らなかった関心」に気づかせる提案型体験を作り出します。
まさに「Netflixを開いたら、もう観るものが決まっている」という感覚が、視聴者の心理的ハードルを大きく下げているのです。
広告とコンテンツ編成の個別最適化戦略
レコメンドアルゴリズムの活用は、番組提案だけではありません。
広告配信や番組編成にも“データ起点”の意思決定が広がっています。
たとえば、NetflixやYouTubeでは「視聴中の離脱ポイント」を解析し、広告挿入の最適タイミングを調整しています。
これにより、「CMが邪魔」という視聴者の不満を軽減しながら、広告主にとってもCTR(クリック率)やCVR(成約率)が高まる結果を生んでいます。
TVerも最近では、広告クリエイティブをパーソナライズして表示する取り組みを進めており、同じ動画でも「誰が観るか」によって挿入広告が変わる設計が始まっています。
さらに、番組編成自体を視聴ログベースで行う地上波局も登場しています。
例えば、深夜帯に再放送枠を設ける際には「TVerでの再生数」や「SNSの反響データ」が考慮されるようになっており、データが視聴体験の裏側を設計する“編成エンジン”となっているのです。
このように、視聴者のデータを「監視」ではなく「共創」に活かす姿勢こそが、信頼と継続利用を促進する鍵になります。
データドリブンな視聴体験とは、単なるAI活用ではなく、“あなたのために最適化された映像世界”を提供する思想そのものなのです。
注目の新潮流:FAST(無料広告型ストリーミングTV)の可能性
動画配信市場における次の主役として、世界的に注目されているのがFAST(Free Ad-Supported Streaming TV)です。
これは、広告収入によって無料で視聴できるテレビ型のストリーミングサービスで、VODと地上波の“いいとこ取り”をした新しい形態として急成長しています。
視聴者はチャンネルを選ぶだけで番組が流れ続け、スケジューリングもされている──つまり、まるで“昔ながらのテレビ”をネットで楽しめるような体験です。
海外で成長中のFASTとは何か?
FASTはすでにアメリカを中心に大きな市場を形成しています。
Pluto TV(Paramount)、Tubi(FOX)、Xumo(Comcast)、Roku Channel など、大手メディア企業が競って参入しており、2024年時点で米国内のFAST視聴者数は1億人を超える規模にまで成長しました。
この背景には、「選ぶのが面倒」「なんとなく観たい」「チャンネルをザッピングする習慣がある」など、“受動的視聴スタイル”への再評価が存在します。
すべてのコンテンツがオンデマンド化された今、あえて“流し見”できる仕組みが求められているのです。
加えて、広告主にとってもFASTは非常に魅力的な環境です。
リニア放送のような時間枠で広告を打てるため、テレビ的なブランド広告と、デジタル的なターゲティング広告の融合が可能となり、効率的かつ効果的な訴求が実現します。
また、チャンネル数は数百〜数千にもおよび、ジャンル特化(料理、ペット、スポーツ、LGBTQ+、90年代アニメなど)された編成が多いため、熱量の高いニッチな層にリーチしやすいのも大きな特長です。
日本市場における展開と将来性の見通し
日本でも、徐々にFASTの波が押し寄せています。
現在のところ、地上波局の関連企業や広告代理店が主導する形で、チャンネル編成型の無料ストリーミングサービスの構築が進められています。
具体的には、ABEMAが一部FASTに近い編成型のチャンネルを持ち、LINE VOOMやYouTube Liveも“擬似FAST化”した運用を模索しています。
国内の導入が本格化しない理由の一つは、コンテンツライセンスや広告出稿文化の違いです。
日本ではまだ「テレビ=放送局が握るもの」という概念が根強く、広告付き無料配信の編成をゼロから構築する難しさがあります。
しかし、テレビ視聴習慣が残る日本においては、“ただつけておけば観られる”というFASTの受動的視聴体験は親和性が高いとも言えます。
とくに高齢層やファミリー層に対し、「番組表のあるインターネットテレビ」というポジションは非常に有望です。
今後の鍵は以下の3点です:
- 地上波局とVOD企業の連携による編成型コンテンツ開発
- 生活シーンごとの“ながら視聴ニーズ”への対応
- 広告効果測定とブランドセーフティへの信頼構築
日本でも2026年頃には本格的なFASTチャンネルの統合型プラットフォームが登場すると予測されており、スマートテレビやコネクテッドTVとの連携が決定打となるでしょう。
今後、FASTは「VODを選ぶのが疲れた」層にとってのオアシスとなる可能性を秘めています。
この“ゆるいテレビ体験”が、実は次なる主流となる日もそう遠くないかもしれません。
まとめ|「選ばれるメディア」としての未来──視聴者とともに進化する共創の時代へ
視聴の主導権が視聴者に完全に移った今、私たちは「選ばされる」のではなく、「自分で選ぶ」メディア時代に生きています。
地上波とVODの対立構造は過去のものとなり、これからは「共に創る」「共に育つ」関係性が求められています。
最後に、この新しい時代におけるメディアのあり方について、一緒に未来を見つめてみましょう。
視聴者との「共創」がメディアの価値を決める
かつてテレビは、スタジオの中から一方的に情報を届ける“高みのメディア”でした。
しかし今、視聴者はコメント欄で反応し、SNSで感想を発信し、視聴ログという「静かな声」で次の番組を形づくっています。
視聴者がメディアを“共に作る存在”として受け入れられている今こそ、真の共創時代の幕開けと言えるでしょう。
この潮流は、Netflixのレコメンド機能やYouTubeのアルゴリズムだけではなく、地上波におけるリアルタイムSNS連動企画や、TVerのユーザーデータを活かした編成にも表れています。
「届ける側」と「受け取る側」が境界を越えてつながることで、新しい感動体験が生まれているのです。
今後の鍵は、メディア側が「どれだけ視聴者の声を聞き、共に歩む姿勢を持てるか」にかかっています。
メディアに求められるのは“癒し”と“居場所”の創造
忙しい日常の中で、動画コンテンツは単なる情報源ではありません。
心をほぐす時間、誰かとつながるきっかけ、過去の自分を思い出すスイッチ──それこそが、今のメディアに期待されている価値です。
「番組が面白い」だけでなく、「その世界観に安心する」「自分の気持ちを代弁してくれる」といった情緒的な共感が、選ばれる理由になっているのです。
そう考えると、VODの進化も、地上波の変革も、最終的には“人間の感情”に寄り添うメディアであることが何よりも重要になります。
それは、どれだけ技術が進んでも、人の心に訴えかける「物語の力」が決して廃れないことを意味しています。
メディアは情報を届けるだけでなく、「誰かの孤独を癒す場」であってほしい。
そして視聴者が「自分の場所」と思えるコンテンツこそ、これからの時代に必要とされるメディアの姿なのです。
“テレビ”という言葉が意味するものが変わる日
10年前、「テレビを見る」と言えばリモコンを手にソファに座る姿が思い浮かびました。
しかし今や、「テレビ」とは地上波だけを指す言葉ではありません。
スマホで観るYouTubeも、家族で楽しむNetflixも、出先で見るTVerも、すべてが“テレビ的体験”と呼べる時代です。
だからこそ、私たちは「テレビ離れ」と呼ばれる現象を、悲観ではなく“進化の兆し”として捉えるべきだと思います。
メディアの形が変わっても、人が物語を求め、共感を求める本質は変わらないのです。
これからの主役は、「視聴者の心に最も寄り添えるメディア」──それは地上波かもしれないし、VODかもしれない。
あるいは、二つが手を取り合った全く新しいスタイルかもしれません。
いずれにしても、これからのメディアの主導権は、私たち一人ひとりの“選択”に委ねられているということ。
情報にあふれた時代だからこそ、心から共感できるものを、自分の意思で選び取ることが、私たちの新しい「視聴行動」なのです。
それが、「テレビ」という言葉の意味が変わる瞬間。
そして、メディアが本当の意味で私たちの“生活の一部”になる未来なのかもしれません。
- 視聴者の主導でメディア選択が行われる時代に突入
- VODは柔軟性と個別最適化で圧倒的な支持を獲得
- 地上波はリアルタイム性と公共性で独自の強み
- TVerやABEMAが放送と配信の融合モデルを構築
- NetflixやPrime Videoは作品力とUXで市場をリード
- AVODとSVODの共存で視聴スタイルは多様化
- 視聴データに基づく編成と広告が体験を変革
- 次の潮流としてFAST型テレビに注目が集まる
- “寄り添うメディア”が今後の選ばれる存在に
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